先週2日に発表された7月の米雇用統計は、市場の事前予想よりもかなり弱めの結果を示した。ことに、非農業部門雇用者数の伸び(NFP/前月比)が予想を大きく下回ったことと、失業率が4.3%とほぼ3年ぶりの水準にまで上昇したことが、市場に強いネガティブ・インパクトを及ぼしたと言える。
NFPについては、前月(6月)分についても大きく下方修正された。思えば、6月分の発表時(7月5日)にも5月分と4月分が大きく下方修正されていた。そのため、筆者は本欄(7月8日更新分)で「ドル/円は、そろそろ潮目が変わり始めてもおかしくない」と述べている。実際、ドル/円は過去1カ月で15円以上も値下がりした。
先週は、日銀金融政策決定会合と米連邦公開市場委員会(FOMC)が30-31日に行われ、各会合の後に行われた記者会見での日銀総裁と米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言が、ドル/円の下げを加速させる大役を担ったと言って差し支えない。
日銀は、前日(30日)まで広がっていた「利上げ見送り観測」に反して追加利上げの実施を決定したが、その結果が伝わった時点では“事前のリーク報道”のおかげもあってか、極端な円高方向に相場がなびく動きは見られていなかった。
そうした状況が一変したのは、やはり植田日銀総裁の会見内容が伝わってきてからである。総裁は「政策金利はまだしばらくは中立金利より低い水準」との見解を示し、更なる利上げにわざわざ含みを持たせたことで、結果、市場の警戒感を煽ってしまった。
また、その後に伝わってきたFOMC後のパウエル議長の発言というのもドル/円の一段の下げに拍車をかけた。議長は「利下げ時期は近づいてきている。9月に利下げが選択肢となる可能性がある」などと述べ、わざわざ9月利下げに言及。事前の市場では、9月利下げにオープンな姿勢は示すものの、強調はしてこないと見られていた。
つまり、今回は以前から「最も避けられたい」、「あまりにもハードルが高い」と市場で考えられていた『日銀の利上げとFRBの利下げの同時決定』が実質的になされたのも同然の状況になってしまった。もともと、市場が警戒していたのは「9月に日銀とFRBが同時に正反対の政策決定を下すこと」だったわけで、一部からは「9月は日銀が譲る格好となり、追加利上げは10月以降」との声さえ聞かれていた。そもそも、9月は自民党総裁選が控えていることもあり、日銀は動きにくいと見る向きも少なくない。
それが7月の決定となったことで、パウエルFRB議長もやや気が緩み、わざわざ9月利下げの可能性に強くコミットするようなコメントを発してしまったということか。
いや、実際のところパウエル氏は強い焦りを感じているに違いない。民間エコノミストからは、以前から米景気の先行き悪化懸念が強く叫ばれていた。政府雇用に支えられた米労働市場の先行きに警鐘を鳴らす声も数カ月前から聞かれていた。それが、7月半ばあたりまでの“行き過ぎた米株高”によって覆い隠されていたようなところもある。
とまれ、先週のドル/円は200日移動平均線を明確に下抜けたばかりか、23年1月以降の下値サポートラインをも下抜けてしまった。目先は、今年3月安値=146.48円処の節目付近で下げ渋るかどうかに要注目。仮に同水準を下抜けた場合には、23年12月安値から今年7月高値までの上げの76.4%押し=145.36円処、あるいは23年1月安値から今年7月高値までの上げの半値押し=144.55円処が次の下値の目安になると見ておかねばなるまい。
もちろん、先週大幅安となった日本株が下げ一服から持ち直す動きとなれば、ドル/円にも一定の戻り余地が生まれておかしくない。既に、日経平均株価などの下げはかなり行き過ぎていると見る向きも少なくないだろう。
(08/05 07:00)
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